最近のHipHopを聴いていて、「このラッパーの声、独特な響きだな」と思ったことはありませんか?
その“声の質感”を生み出している正体のひとつが 「オートチューン」 です。
T-PainやTravis Scott、そして日本ではTohjiやLEXといったアーティストたちが活用し、
今や現代HipHopに欠かせないサウンドエフェクトとなっています。
この記事では、「オートチューンとは何か?」から「実際の使い方」まで、
初心者でもわかるように丁寧に解説していきます。
オートチューンとは?
簡単に言うと?
オートチューンとは、音程を自動で補正してくれるツールのことです。
本来は“ピッチ補正ソフト”として開発され、録音したボーカルを正しい音程に整えるためのものです。
ただ、現在のHipHopやポップスでは「補正」だけでなく、
声そのものをエフェクトとして加工する目的でも使われています。
つまりオートチューンは、
“上手く歌うためのツール”でありながら、
“自分の声をデザインする表現手段”でもあるのです。
オートチューンの仕組み
オートチューンは、ボーカルの音をリアルタイムで解析し、
楽曲のキー(Cメジャー、Aマイナーなど)に沿って音程を自動的に補正します。
補正速度(Retune Speed)を速く設定すれば、音の切り替わりが機械的に聞こえ、
それが“ロボットボイス”のような効果を生み出します。
一方で、補正速度を遅くすれば自然なピッチ修正になり、
ポップスやR&Bでは“さりげないチューニング”として活用されています。
1998年、Cherの「Believe」がすべての始まり
オートチューンが初めて世界的に注目を浴びたのは、1998年にリリースされたCherの大ヒット曲「Believe」です。
当時の音楽シーンでは、ボーカル補正は“裏方の作業”であり、リスナーの耳に届くことはありませんでした。
しかし「Believe」では、ボーカルの音程を極端に補正し、“ロボットのような声”をあえて前面に出したことで、これまでにない未来的なサウンドを作り上げました。
この“機械的な声”は、当初はエラーのようにも感じられましたが、その独特の響きが逆に新鮮で、世界中のリスナーを魅了しました。
結果的に「オートチューン」という技術が一般のリスナーにも知られるきっかけとなったのです。
HipHopとの融合 ― T-Painによる再発明
2000年代中盤になると、オートチューンは単なる補正ツールではなく、「個性を演出するためのエフェクト」として再評価され始めます。
この流れを決定づけたのが、アメリカのシンガー・ラッパー T-Pain です。
彼は2005年頃から「I’m Sprung」や「Buy U a Drank」などで大胆にオートチューンを使用し、滑らかで浮遊感のあるボーカルスタイルを確立しました。
T-Painの影響は絶大で、Lil WayneやKanye Westといったアーティストたちがそのサウンドを自分の表現に取り入れ、HipHop全体が“メロディック”へと進化していきます。
Kanye West『808s & Heartbreak』が切り開いた新時代
- Kanye - Heartless
2008年、Kanye Westはアルバム『808s & Heartbreak』で、オートチューンを感情表現のツールとして使うという新しい方向性を提示しました。
彼はT-Painのようにスタイルとして使うのではなく、“悲しみ”や“孤独”といった感情をテクノロジー越しに表現する手段として使いこなしました。
この作品は当時賛否両論でしたが、後にTravis ScottやLil Uzi Vert、Futureなどの新世代ラッパーたちに強い影響を与え、現代の「エモーショナルなラップ」の礎を築きました。
オートチューンを駆使しているラッパー・アーティスト
オートチューンは今や、ヒップホップに欠かせない“楽器”のひとつです。
ここでは、オートチューンを単なる補正ツールではなく、自分の世界観を表現する武器として使いこなしているアーティストたちを紹介します。
現在最前線で活躍しているUSと日本、それぞれの代表的なラッパーを見ていきましょう。
USのラッパー3選
Travis Scott(トラヴィス・スコット)- HIGHEST IN THE ROOM
Travis Scottは、オートチューンを“空間そのものを演出するエフェクト”として使うことで知られています。
代表曲「SICKO MODE」や「HIGHEST IN THE ROOM」では、声がまるで宇宙空間に漂っているかのような浮遊感を作り出しています。
オートチューンに加え、リバーブやディレイを重ねることで、声がビートの一部になるような没入感を演出しているのが特徴です。
彼の使い方は、単なる補正ではなく“声で世界を作る”スタイルの象徴といえるでしょう。
Future(フューチャー)- Mask Off
Futureは、Trapサウンドとともにオートチューンを定着させた立役者の一人です。
無機質で抑揚の少ないボーカルにオートチューンを強くかけることで、独特の中毒性と哀愁を生み出しています。
「Mask Off」などでは、繰り返されるフレーズの中にわずかな感情の揺れを感じさせ、人間味と機械的サウンドの境界を曖昧にしています。
彼のスタイルは、“冷たくも熱い”Trapボーカルの原型といえるでしょう。
Lil Uzi Vert(リル・ウージー・ヴァート)- XO TOUR Llif3
Lil Uzi Vertは、オートチューンをメロディ表現の拡張ツールとして使うタイプです。
彼の曲「XO TOUR Llif3」では、悲しみや虚無感をにじませた声に強めのオートチューンをかけることで、感情がデジタル越しに滲み出るようなサウンドを生み出しています。
ラップと歌の境界を曖昧にするスタイルは、後のメロディックラップの流れにも大きな影響を与えました。
日本のラッパー3選
Tohji(トージ)- プロペラ
日本のオートチューンシーンを語るうえで外せないのがTohjiです。
彼のボーカルは、英語と日本語を自在に行き来しながら、オートチューンで声を透明に磨き上げるのが特徴です。
「プロペラ」や「tAtu」では、声がメロディの一部としてビートに溶け込み、聴く人を包み込むような没入感を与えます。
海外アーティストのサウンド感と日本語の柔らかさを両立させる、ハイブリッド型の使い方をしています。
LEX(レックス)- なんでも言っちゃって
10代から注目を集めているLEXは、オートチューンを使ってエモーショナルで繊細な感情を増幅させるアーティストです。
「なんでも言っちゃって」や「Gucci」のように、若さと不安、葛藤をストレートに乗せたリリックを、オートチューンの歪みとともに響かせることで、リアルで生々しい感情を伝えています。
彼の声は“機械的”でありながら、どこか“人間的”という魅力があります。
まさにデジタルと感情の交差点です。
kZm(ケーズィーエム)- Dream Chaser
kZmは、Trapサウンドとオートチューンを組み合わせてラップにメロディを宿すスタイルを確立しました。
「Dream Chaser」や「GYAKUSOU」では、フックだけでなくバースにも軽くオートチューンをかけ、
流れるようなフローと立体的なサウンドを作り上げています。
彼の使い方は、自然にオートチューンを溶け込ませる“引き算の美学”とも言えるでしょう。
実際にオートチューンを使ってみよう!
「オートチューンの音ってどうやって作るの?」
 そう思った人のために、ここでは初心者でもすぐに試せる基本の使い方を紹介します。
 特別なスタジオ機材がなくても、自宅のパソコンと最低限の環境があれば始められます。
用意するもの
オートチューンを使うには、パソコン、DAW、オートチューンプラグイン、マイク、オーディオインターフェースが必要になっていきます。
・パソコン(WindowsまたはMac)
オートチューンはプラグインとしてDAW(音楽制作ソフト)で使用するため、ある程度のスペックが必要です。CPUはCore i5以上、メモリは16GB以上あると快適に動作します。
※DAWによってはWindowsかMacのどちらかにしか対応していない場合があります。
 DAWを検討する際は十分に気をつけて下さい。
・DAW(Digital Audio Workstation:音楽制作ソフト)
代表的なDAWとして、Logic Pro、FL Studio、Studio One、Ableton Live、GarageBandなどがあげられます。オートチューンはこれらのソフト内で使用します。
・オートチューンプラグイン
代表的なものはAntares Auto-TuneシリーズやWaves Tune Real-Time、Melodyneなど。無料で試せる簡易版も存在します。
- Antares Auto-Tuneシリーズ
オートチューンといえば、まず名前が挙がるのが Antares社のAuto-Tuneシリーズ です。1997年に登場して以来、音楽業界に革命をもたらした“元祖”オートチューンであり、T-PainやKanye West、Travis Scottなど多くのアーティストが使用しています。
- Waves Tune Real-Time
Waves Tune Real-Time は、老舗プラグインメーカーWaves社が開発した
ライブパフォーマンス向けのオートチューンです。
その名の通り、リアルタイム処理性能 に優れており、ステージ上や生配信でも“遅延なし”でピッチ補正を行えるのが特徴です。
・マイク
ボーカルを高音質で録るためには、マイク選びも重要です。
基本的には 「コンデンサーマイク」 が理想ですが、初心者には USBマイク でも十分対応可能です。
- Audio-Technica AT2020 - コンデンサーマイク(本格派向け)
繊細な音まで拾えるため、プロのレコーディングにも使用されます。
使用にはオーディオインターフェースが必要ですが、音質のクオリティは格段に上がります。
Audio-Technica AT2020は、業務用スタジオだけでなく、家庭のプロジェクト/ホームスタジオ用途を強く意識した “コストパフォーマンス重視” モデルとして広く使われています。指向性は カーディオイド(単一指向性)であり、正面の音を中心に拾って左右や背後のノイズを抑える特性があります。
※コンデンサーマイクを使用する際は、オーディオインターフェースが必要になります。
- Yeti(Logicool)- USBマイク(手軽に始めたい人向け)
USBマイクはオーディオインターフェースなしで、USBケーブル1本でパソコンに接続可能です。特に初心者に人気なのが Logicoolの「Blue Yeti」です。
YetiはUSBマイクながら非常に高音質で、指向性(単一指向性・双指向性・無指向性など)を切り替えられる多機能モデル。
さらに、専用ソフト「Blue VO!CE」を使えば、声質の微調整やノイズ除去も簡単に行えます。
 宅録環境でのラップ録音やボーカル練習には最適な1本です。
・ オーディオインターフェース(任意)
コンデンサーマイクを使う場合や、より高音質で録音したい場合に必要です。
パソコンとマイクの間に接続し、音をデジタル信号に変換してくれる機器です。
音の解像度が上がるだけでなく、遅延の少ないモニタリング(自分の声をリアルタイムで聴く)が可能になります。
- Focusrite Scarlett Solo
Scarlett Solo は、Focusrite(フォーカスライト)が展開するUSBオーディオインターフェースの中でも、シンプルかつコンパクトなエントリーモデル です。
Focusriteの Scarlett シリーズ特有のAirモード(Air Mode)を使うことで、録音段階から“ミックス済みっぽい”存在感を演出できます。
特にオートチューンをかけるラップや歌では、声のアタックや質感がクリアに補正されやすくなるため、後処理がしやすくなります。
基本のかけ方(初心者向け手順)
オートチューンの基本操作は、たったの4ステップです。
① 録音したボーカルをDAWに取り込む
まずは、歌やラップを録音しましょう。
すでに録ってある音声ファイルがある場合は、それをDAW(音楽制作ソフト)に読み込めばOKです。
音が入ったトラックを用意することが、オートチューンの第一歩です。
② プラグインをインサート(挿入)する
録音したトラックに、オートチューンプラグインを“インサート”します。
 インサートとは、簡単に言うと「エフェクトを追加する」という意味です。
 Antares Auto-TuneやWaves Tune Real-Timeなど、使いたいプラグインを選んで設定しましょう。
③ 曲のキーを設定する
次に、曲のキー(CメジャーやAマイナーなど)を設定します。
キーを正しく設定しないと、音程がズレて不自然に聞こえてしまいます。
もし曲のキーがわからない場合は、
「Mixed in Key」や「Tunebat」などの無料ツールを使えば、自動で判別してくれます。
④ Retune Speed(補正速度)を調整する
最後に、どのくらいの速さで音程を補正するかを設定します。
- 速く(0〜10程度) → 機械的な“ロボットボイス”に近づく
- 遅く(30〜100程度) → より自然で滑らかな歌声になる
トラップやクラウドラップでは速め、ポップスやR&Bではゆるめが定番です。
曲の雰囲気に合わせて、自分なりの“かけ具合”を探してみましょう。
よくある失敗とコツ
オートチューン初心者がつまずきやすいポイントと、その対策を紹介します。
- 失敗①:キー設定が間違っている
 → キーがズレていると、音が不自然に外れたように聞こえます。曲のスケール(例:Cメジャー、Aマイナー)を必ず確認しましょう。
- 失敗②:補正をかけすぎてロボット声になりすぎる
 → Retune Speedを速くしすぎると機械的になります。ナチュラルにしたい場合は30〜50程度に設定するのが目安です。
- 失敗③:録音のノイズや息が大きすぎる
 → オートチューンは音程のブレを解析するため、ノイズが多いと誤作動の原因になります。録音環境を整え、ポップガードを使いましょう。
- 失敗④:タイミング補正と混同してしまう
 → オートチューンは「音程補正」であり、「リズム補正」ではありません。タイミングを直したい場合は別のツール(例:Flex Time、Melodyneのタイム機能など)を使いましょう。
コツ:音源に合わせて“かけ具合”を変えること!
オートチューンは「全開=カッコいい」とは限りません。トラップやクラウドラップでは強め、ポップスやR&Bでは自然めに調整するなど、ジャンルや曲調に合わせてコントロールするのがプロっぽく聞かせるポイントです。
オートチューンを使いこなすためのマインドセット
「オートチューン=下手な歌を隠すためのもの」というイメージを持つ人は少なくありません。
しかし、実際のところオートチューンは、“声をひとつの楽器として扱うためのツール”です。オートチューンを理解して使いこなせば、単なるピッチ補正の枠を超え、声そのものがサウンドデザインの一部になります。
大切なのは、「機械的な音を出すこと」ではなく、自分の表現をどこまで拡張できるかという発想が大切です。
NORDERでアーティスト活動を快適に!

オートチューンを使って曲が完成したら、次はどう届けるかが大切です。
NORDERなら、あなたの楽曲をより多くのリスナーに届けるためのプロモーションをサポートし、曲の分析機能も利用できます。
自分のスキルを形にして、成長を実感しながら世界中のリスナーに広げていきましょう。
まとめ
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オートチューンは、ただ音程を直すためのツールではありません。
今や“声で世界を描く”ための表現手段として、HipHopやポップスに欠かせない存在になっています。
使い方を覚えれば、あなたの声は単なるボーカルではなく、感情や空気感まで表現できる“楽器”になります。
オートチューンを駆使して、自分だけのサウンドを作り出しましょう。


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