「いつかプロになりたい」と漠然と考えていても、レーベルや事務所の役割、契約の仕組みとなると難しく感じてしまう方も少なくありません。 音楽業界について正しい知識を身につけることは、アーティストの才能や権利を守り、理想の活動を実現するための強力な武器になります。
この記事では、レーベルの基礎からメジャーとインディーズの違い、契約時の重要ポイントまでを分かりやすく解説します。
簡単に言うとレーベルとは何をしている組織?

レーベルとは、音楽作品の企画、制作、そして世の中に届けるための宣伝・販売を担う組織やブランドのことです。アーティストの楽曲を録音して「原盤」を制作し、CDや配信といった形で商品化する役割を持っています。また、その作品をより多くの人に聴いてもらうためのマーケティング戦略を練り、メディアへのプロモーション活動も行います。アーティストの音楽性をビジネスとして成立させるためのパートナーと言えるでしょう。
大手レーベルとはどこ?世界三大レーベルとは?
世界的なシェアを持つ巨大なレコード会社グループを指して、かつては「六大レーベル」と呼ばれていましたが、現在は再編が進み「三大レーベル(ビッグ・スリー)」となっています。
具体的には、ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)、ワーナー・ミュージック・グループ(WMG)の3社です。これらは世界各国に拠点を持ち、膨大なカタログと強力な資金力で音楽市場を牽引しています。
レーベルとレコード会社の違い(音楽制作、販売)
一般的に「レコード会社」は企業としての母体を指し、「レーベル」はその会社の中にある特定のブランドや制作部署を指すことが多いです。レコード会社全体としては、営業、流通、法務などの機能を持っていますが、その傘下にある各レーベルは、ロック、ポップス、ジャズなど特定のジャンルや色を持った制作チームとして機能します。一つの会社の中に、異なる個性を持った複数の「レーベル」が存在しているイメージです。
レーベルと音楽事務所の違い(マネージメント)
役割を大きく分けると、レーベルは「音源(CDやデータ)」の権利を持ちビジネスをする組織であり、音楽事務所(プロダクション)は「アーティスト本人」の管理をする組織です。事務所はスケジュール管理、ライブ制作、ギャラの交渉、ファンクラブ運営など、アーティスト活動全般をサポートします。多くのメジャーアーティストは、事務所に所属してマネージメントを受けつつ、レーベルと契約してCDをリリースする体制をとっており、レーベルと事務所を別々の組織で契約しているパターンが多いですが、昨今は事務所とレーベルが一体となっている組織と契約するパターンも増えてきています。
▼音楽事務所の例
レコード会社が複数のレーベルを分けて持つ理由
一つのレコード会社が複数のレーベルを持つのは、ジャンルごとの専門性を高め、ターゲット層を明確にするためです。例えば「アイドルに強いレーベル」「本格派ロックのレーベル」「アニメソング専門レーベル」と分けることで、それぞれのファン層に響くブランディングが可能になります。また、社内で複数のレーベルが競争することで、ヒット作を生み出す活力を高めるという狙いもあります。
メジャーレーベルとインディーズレーベルとの違いは?

日本では一般的に、日本レコード協会に加盟している大手レコード会社と契約している場合を「メジャー」、そうでない独立系の会社や個人規模の流通を通す場合を「インディーズ」と呼びます。上で紹介した三大レーベルに加えて、avex(エイベックス)を加えた4レーベルが国内の最大手レーベルとなっています。
最大の違いは「プロモーションの規模」と「流通網」です。メジャーはテレビやラジオなどのマスメディアへの太いパイプと豊富な予算を持っていますが、一般的にインディーズは予算が限られる分、自由な表現や草の根的な活動が中心となります。
▼日本レコード協会に加盟している大手レコード会社の例
自主レーベルとは
自主レーベルとは、アーティスト自身が立ち上げ、運営主体となるレーベルのことです。企業に所属するのではなく、自分たちで資金を出してCDをプレスし、流通業者に委託して販売を行います。制作の方向性から販売戦略、利益の配分まで全て自分たちで決定できるのが特徴です。最近では配信サービスの発達により、個人でも手軽に自主レーベルとして世界中に楽曲を配信できるようになりました。
有名なインディーズレーベル
インディーズとはいえ、特定のジャンルで熱狂的な支持を集め、メジャーに匹敵する影響力を持つレーベルも多数存在します。例えば、パンク・ロックシーンを牽引したPIZZA OF DEATH RECORDSや、多くの人気バンドを輩出したUK.PROJECTなどが有名です。海外では、ニルヴァーナを輩出したSub Popなどが知られており、独自のカルチャーを形成しています。
▼国内インディーズレーベル例
レーベルと契約を結ぶ際の注意点、見るべきポイント

レーベルとの契約はアーティストの将来を左右するため、契約書の内容は慎重に確認する必要があります。特に「契約期間中の拘束力」と「権利の所在」はトラブルになりやすいポイントです。
口約束ではなく必ず書面で契約を交わし、不明点は弁護士などの専門家に相談することが推奨されます。「何を義務付けられ、何を得られるのか」を明確にしておくことが、長く活動を続けるための防衛策となります。
特に注意すべきポイント
- 契約形態
- 報酬の仕組み
- 契約期間
- 権利帰属(商標権、著作権)
の4つです。以下、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
契約形態
契約には主に、アーティストとしての活動全般を契約する「専属実演家契約」と、制作した音源の権利を一定期間預ける「原盤供給契約(ライセンス契約)」などがあります。メジャーでは専属契約が一般的で、契約期間中は他のレーベルからリリースすることはできません。一方、インディーズや自主活動では、作品単位で契約を結ぶライセンス契約の形をとることも多く、より柔軟な活動が可能です。
報酬の仕組み
アーティストが得る主な報酬は、CDや配信の売上に応じた「印税(ロイヤリティ)」です。契約書には、売上の何パーセントが支払われるか(印税率)が記載されています。売上から制作費を引いた利益に対して支払われるのか、総売上に対して支払われるのか、など細かい部分も契約によって異なるので、注意が必要です。
また、契約時に「アドバンス(前払金)」が支払われる場合もありますが、これは将来の印税の前借りであるケースが多く、売上がアドバンスを超えないと追加の印税が入らないこともあります。これらのように、計算方法をよく理解しておくことが大切です。
契約期間
契約期間は「○年間」または「アルバム○枚のリリースまで」といった形で定められます。注意すべきは、レーベル側が契約を延長できる「オプション権」の有無です。アーティストが辞めたいと思っても、レーベル側がオプションを行使すれば契約が続いてしまう場合があります。また、契約終了後も、過去の作品に関する権利がどう扱われるかを確認しておく必要があります。
権利帰属(商標、著作権)
最も重要なのが「原盤権(録音された音源の権利)」と「著作権(作詞作曲の権利)」の帰属先です。メジャー契約では、制作費を出資するレーベルが原盤権を持つのが一般的です。また、アーティスト名(バンド名)が商標登録される場合、その権利を誰が持つかも重要です。権利を全て渡してしまうと、契約終了後に自分の曲を自由に使えなくなったり、バンド名を名乗れなくなったりするリスクがあります。
インディーズのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
|---|---|
・レコード会社の意向に縛られず、自分たちの音楽を追求できる ・プロデューサーやマネージャーとの距離が近い ・利益率が高い | ・プロモーションのための資金不足になりやすい ・音楽活動以外の業務も自分たちで行う必要がある |
インディーズの最大のメリットは「自由度」です。音楽性や活動方針を自分たちで決められ、原盤権を自分たちで保持しやすい傾向にあります。また、利益率を高く設定できる場合もあります。
一方、デメリットは「資金とマンパワーの不足」です。制作費や宣伝費を自分たちで工面する必要があり、大規模なプロモーションを打つのが難しいため、認知を広げるのに時間がかかることが多いです。しかし、現在はインターネットの発達で多くのリスナーにリーチしやすく、活動次第ではメジャーに匹敵するほどの宣伝を行うことが可能となります。
メジャーのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
|---|---|
・潤沢な資金力でプロモーションが可能 ・メディア露出の機会を得やすい ・音楽制作に集中できる | ・音楽性への介入があり得る ・リリース時期など、レコード会社の意向に合わせた制約を受け得る |
メジャーのメリットは、圧倒的な「資金力」と「宣伝力」です。テレビタイアップや全国規模のプロモーションが可能になり、多くの人に音楽を届けるチャンスが広がります。社会的信用も得やすいです。
デメリットは、売れるための戦略として音楽性への介入があったり、リリース時期が会社の都合で決まったりと、「自由度が制限される」ことです。また、結果が出なければ短期間で契約終了となる厳しさもあります。
まとめ:自分に合った音楽活動をしっかり考える
音楽活動の正解は一つではありません。より多くの人に届けたいならメジャー、自分の表現を純粋に追求したいならインディーズや自主レーベルと、自分の目指すゴールに合わせて選択することが大切です。また、昨今ではSNSを駆使することで、メジャーに所属しなくとも、効率的にプロモーションを行うこともできます。契約は単なる手続きではなく、パートナーシップの約束です。メリット・デメリットを理解し、自分たちが大切にしたいものは何かを見極めた上で、最適なパートナーと契約を結ぶようにしましょう。

