日本から世界へ──藤井風の音楽は、国境を越えて多くの人々の心をつかんでいます。
特に「死ぬのがいいわ」は、言葉が通じなくても感情が伝わる“音楽の力”を体現した象徴的な1曲です。2022年、タイをはじめ東南アジアで爆発的にバイラルし、Spotifyでは70カ国以上でチャートイン。
いまや藤井風は、“日本のアーティスト”という枠を超えたグローバルミュージシャンとして知られています。
では、なぜ彼の音楽はここまで世界に広がったのでしょうか?
その理由を、SNS文化、音楽性、そして戦略の3つの視点からひもといていきます。
「推し文化」が火をつけた、TikTokでのバイラルヒット
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タイでは、TikTokが若者の主要な発信プラットフォームとして定着しており、多くの音楽トレンドがここから生まれています。
藤井風の「死ぬのがいいわ」もその一つで、当初は日本のファンを中心に聴かれていた楽曲が、思いがけない形で海外
──特にタイを中心に広がりました。
その背景には、SNS上で盛り上がる「推し文化」の存在があります。
TikTokでは「私の最後はあなたがいい あんたとこのままオサラバするより 死ぬのがいいわ」というフレーズをBGMに、
アイドルや俳優、アニメキャラクターなど“推し”への想いを表現する動画が次々と投稿されました。
この歌詞の「切実な愛情」や「相手への深い思慕」といったテーマが、推しへの愛着を大切にするタイの若者たちの感情と自然に重なったのです。
- 藤井風 - 死ぬのがいいわ
さらに、「死ぬのがいいわ」の持つ哀しさと温かさが共存するメロディも、推し文化と相性が良い要素でした。BGMとして流すだけで“推しへの想い”を繊細に表現できるため、多くのユーザーが共感を覚え、自然に拡散が広がっていきました。
この流れは、やがてアジアの他の地域や欧米圏にも波及します。ファンダム(Fandom)動画や恋愛テーマの投稿にも使われるようになり、ユーザー主導のコンテンツが世界各地で生まれました。結果として、「死ぬのがいいわ」は単なる日本の楽曲を超え、“推しへの想いを象徴する楽曲”として多くの人に親しまれる存在となったのです。
世界のニーズに応えたYouTube戦略
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「死ぬのがいいわ」がTikTokで予想外にバズった時点では、YouTubeに公式のミュージックビデオはありませんでした。そこで藤井風のチームは、急遽2020年の日本武道館でのライブ映像を公開しました。通常、ミュージックビデオなしでバイラルヒットすることは珍しいですが、彼はTikTokでバズったタイミングを逃さず、すぐに反応しその波に乗ることで、彼の音楽とパフォーマンスの魅力をより多くの人に伝えることができました。こうした迅速な対応が、TikTokから興味を持った人々がファンになるきっかけにつながったのです。
- Fujii Kaze - "Shinunoga E-Wa" Live at Nippon Budokan
さらに、YouTubeに公開されたライブ映像には、公開後約2カ月で英語や中国語、韓国語に加え、タイ語、フィリピン語、ヒンディー語、インドネシア語、マレー語、ポルトガル語、スペイン語といった多言語の字幕が追加され、より多くの視聴者がアクセスしやすくなりました。
特にタイ語の字幕対応は、現地での人気を反映したもので、大きな反響を呼びました。多言語対応によって、藤井風の音楽はさらに広く理解され、視聴者に親しみやすさを感じさせたのです。東南アジアを中心に彼のファン層が急速に拡大した背景には、このような細やかな配慮が大きく貢献していると考えられます。
結果として、東南アジアを中心にファン層が急速に拡大しました。
TikTokで偶然耳にした曲から、YouTubeでライブを観て、彼の表現力や人間性に惹かれてファンになる
──そんな流れが自然に生まれました。
藤井風のグローバルな広がりの裏には、デジタル時代における“発見から共感へ”の導線を意識した柔軟で戦略的な対応があったのです。
さらに強化されるグローバルファンダム
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アジア横断ツアーを成功
藤井風はアジア全域でライブ公演を行い、グローバルなファン層を着実に広げています。2023年には、ソウル、バンコク、ジャカルタ、台北、香港など7都市を巡る初の海外ツアーを成功させ、各地で熱狂的な支持を受けました。
2024年、藤井風は 「Best of Fujii Kaze 2020-2024 ASIA TOUR」 と銘打ったアジアツアーを9都市(シンガポール、クアラルンプール、バンコク、台北、ジャカルタ、香港、マニラ、ソウルなど)で展開しました。各地でアリーナクラスの会場を埋め、スタジアム級の動員を達成した日本での成功を、まさにアジアへ拡張したツアーでした。藤井風のライブでは、毎回異なるアレンジが披露されることが多く、ファンにとってはその場でしか体験できない特別な音楽が魅力となっています。
彼の特徴的なピアノ演奏を中心としたパフォーマンスは、各地のファンを引き込み、大きな盛り上がりを見せています。
このようなツアーの実績は、藤井風が音楽配信の枠を超え、リアルなライブ体験を通じて、世界中のファンとの絆を深め、そのファンダムをさらに強化していることを示しています。
USへの進出も
- Fujii Kaze: Tiny Desk Concerts JAPAN
2024年には、米国の人気音楽企画「NPR Tiny Desk Concerts JAPAN」に出演し、世界中のリスナーに圧倒的なインパクトを与えました。その後、5月には自身初のU.S.ツアーを実施し、ロサンゼルスやニューヨークなど主要都市でソールドアウトを記録しました。さらに、8月の日産スタジアム公演では2日間で14万人を動員し、国内アーティストとしても異例の規模を達成しました。
続く2024年10月から12月にかけては、「Best of Fujii Kaze 2020–2024 ASIA ARENA TOUR」として、台北、バンコク、ジャカルタ、香港、ソウルなど全10都市・14公演を完走しました。現地メディアでも連日ニュースとして報じられ、アジア全域での人気を決定づけた。
音楽への深い愛と、変わらない「奉仕」の精神
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藤井風の音楽には、一貫して「愛」と「奉仕」というテーマが流れています。
デビュー時から掲げてきたモットー「HELP EVER HURT NEVER(常に助け、決して傷つけない)」、そして2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL(全てを愛し、全てに仕えよ)』──この2つの言葉は、彼の創作の軸を象徴している。
彼はインタビューの中で、「音楽は誰かを癒やすためのもの。自分のためではなく、世界のために流れるもの」と語っています。
その姿勢は、派手なパフォーマンスや流行を追うのではなく、音楽を“祈り”や“心の行い”として捉える感性に裏打ちされています。
幼少期から父の影響でピアノを弾き、喫茶店でのカバー動画投稿をきっかけに世界へと踏み出した藤井風。
その原点には、常に「人を喜ばせたい」「誰かの心を軽くしたい」という温かい願いがありました。
彼の歌声が国や言語を超えて届く理由は、技巧ではなく、“音楽への誠実な愛”が込められているからでしょう。
新章を告げる3rdアルバム『Prema』──“愛”のさらに深いかたちへ
2025年9月、藤井風は待望の3rdアルバム『Prema』をリリースしました。
タイトルの「Prema(プレーマ)」はサンスクリット語で“無条件の愛”を意味し、これまで掲げてきた「Help Ever, Hurt Never(常に助け、決して傷つけない)」「Love All, Serve All(全てを愛し、全てに仕えよ)」というメッセージに続く、“愛の第三章”を象徴しています。
本作では、英語詞の楽曲を複数収録するなど、これまで以上にグローバルなリスナーに向けたアプローチが際立っています。
また、R&Bやゴスペル、アンビエント、ジャズ、そして日本的な旋律の要素を溶け合わせ、ジャンルの境界を軽やかに超えるサウンドを構築しています。
レコーディングは日本・ロサンゼルス・ロンドンの3拠点で行われ、各地の空気感をそのまま音に封じ込めたという。
アナログとデジタルを融合させたサウンドメイクにより、人間的な温かさとデジタルの透明感が共存する“ハイブリッドな祈りの音楽”が完成されました。
- Fujii Kaze - I Need U Back
また、『Prema』ではビジュアルや映像演出にも新たな試みが見られる。
アートワークやミュージックビデオでは、光や水、自然の循環といったモチーフを取り入れ、
「人間と宇宙の調和」という普遍的テーマを直感的に伝える演出が施されている。
アルバム全体が一つの“体験”としてデザインされており、聴覚・視覚・感情のすべてで「Prema=愛」を感じ取れる構成となっている。
『Prema』は、これまでの藤井風のキャリアを総括すると同時に、
“アジアのスター”から“世界的アーティスト”へと進化した彼の精神的・芸術的到達点が表現されているアルバムです。
また、単なるアルバムではなく、藤井風という存在そのものが奏でる「愛の証明」であり、
音楽という形を借りた、ひとつの祈りのようでもあるような作品です。
まとめ
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藤井風の「死ぬのがいいわ」は偶然のバイラルから生まれました。
しかし、それを一過性で終わらせなかったのは、彼の音楽への誠実な姿勢と愛のメッセージです。
TikTokやYouTubeでの拡散を通じて、彼は“トレンド”ではなく“心”を届けました。
その根底には、「人と人が音でつながる喜び」という信念があります。
「Help Ever, Hurt Never」「Love All, Serve All」、そして新章『Prema』。
藤井風はこの言葉たちを通じて、“祈りのような音楽”を世界に示しています。
彼の存在は、日本の音楽が国境を越え、感情のレベルで世界と響き合えることを証明しました。
『Prema』から始まる物語は、まさに“日本発の音楽が世界を癒す”という希望の象徴です。

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