「Music Ally」から2024年版のフランス音楽市場レポートが公開されました。この記事では、フランス市場の現状やトレンドを深掘りし、デジタル化の進展、国内アーティストの影響力、そしてグローバル展開について詳しく解説します。
フランス音楽市場の成長を阻むデジタル移行の壁
フランスの音楽市場は2024年上半期に5.9%の成長を記録しましたが、他の欧州市場に比べて成長が遅れていると指摘されています。たとえば、2023年の成長率はドイツが7%、スペインが10.5%、イギリスが8%と、フランスを上回っています。成長が遅い背景には、物理メディアへの依存度が依然として高く、デジタル化やサブスクリプションサービスへの移行が進みにくい現状があります。
現在、フランス国内の音楽サブスクリプション利用者は約1,200万人で、全人口に対する普及率は16%にとどまっており、主要な音楽市場の中でも低い水準です。フランスでは、消費者が新しいサービスに順応しにくく、既存の利用方法に固執する傾向が強いとされています。今後、有料サブスクリプションの拡大が市場の成長を後押しするカギになるでしょう。
一方で、2024年上半期の売上の60%以上がサブスクリプションからの収益であることも確認されています。これに比べると、日本では広告付きのストリーミングを含めても「ストリーミング」の売上比率は約34.4%にとどまり、デジタルシフトが遅れていることが浮き彫りになっています。
フランス語音楽と文化を支える国内アーティストの影響力
フランスの音楽シーンでは、特にラップやポップスのフランス人アーティストが大きなシェアを占めており、トップアルバムの大半がフランス人アーティストの作品です。例えば、パリ出身のラッパーPLKのアルバム「Chambre 140」は、特に若年層を中心に支持を集めており、TikTokなどのSNSを活用したプロモーションが効果を発揮しています。
また、フランスでは「文化的例外(Exception Culturelle)」と呼ばれる政策があり、フランス語コンテンツと地域文化の保護が重視されています。このため、フランス語の音楽やアーティストを強調したキャンペーンが成功しやすく、国内アーティストが持つ影響力が高まっています。最近では、イギリスのラッパーDaveやCentral Ceeがフランスのアーティストとコラボレーションする動きも見られ、フランスのヒップホップとフランス語音楽への愛着を取り入れています。
さらに、持続可能性や社会問題への意識が、特に若年層の間で高まっており、こうしたテーマを含むマーケティングが成功につながりやすくなっています。地理的には、パリがフランス音楽の中心地である一方で、マルセイユやトゥールーズ、ナント、リヨンといった他の都市も多様な音楽ジャンルの才能を育む場所として重要な役割を果たしています。これらの地域は、特にラップのシーンが強固に根付いていることで知られています。
また、フランスのラジオや音楽プラットフォームには、フランス語楽曲の35%を必ず放送する義務が課されており、フランス語コンテンツの存在感が非常に強く保たれています。こうした文化政策や規制は、国内アーティストにとって大きな支えとなり、彼らの人気を国内外でさらに拡大する要因となっています。
フランス音楽のグローバル展開
フランスの音楽シーンは、国内市場だけでなく、国際的な影響力も徐々に強化しています。フランスの音楽を海外に広めることを目的とした政府支援の団体であるBureauExportを通じて、政府はフランス音楽の輸出を積極的に支援しており、国内アーティストが海外で活躍する機会が増えています。2023年には、Centre National de la MusiqueとSNEPの共同調査により、海外での認定シングルやアルバムの数が前年比30%増加したことが報告されました。これにより、フランス音楽の国際的な影響力が高まっていることが示されています。
フランス音楽の輸出成功の例として、フランスとマリにルーツを持つシンガーソングライター、アヤ・ナカムラが挙げられます。彼女はオリンピックの開会式に登場するなど、国際的な舞台で注目を集めました。また、ピエール・ド・マエールやボリス・ウェイといった新進気鋭のアーティストも世界での評価を高めています。
さらに、過去の楽曲もデジタルプラットフォームを通じて新たな注目を集めています。例えば、ジェインの「Makeba」やVideoclubの「Amour Plastique」といったカタログ楽曲がTikTokでバイラルになり、再び国際的な人気を得ています。これにより、フランスの楽曲が持つポテンシャルが証明され、若年層を中心にフランス音楽がグローバルに広がるきっかけとなっています。
こうした成功は、フランス語の音楽と文化を支持する政策だけでなく、SNSやストリーミングプラットフォームの活用により実現されています。今後も、フランス音楽が多様なジャンルで国際市場に進出し、さらなる成長が期待されます。
まとめ
フランスの音楽市場は、デジタル化の遅れやフィジカルメディアへの依存といった課題を抱える一方で、国内アーティストの影響力や文化政策による支援を強みに成長を続けています。特にフランス語のコンテンツが優先され、若年層を中心に支持を集めるラップやポップスの人気が高まっています。また、国際展開も進み、BureauExportの支援やSNSの活用により、フランス音楽が世界に広がりつつあります。今後もフランス音楽が国内外でさらなる飛躍を遂げることが期待されます